宿命の出会い
2015年06月03日
ポチャン!
痛てててて、なにも投げ入れることないのに!乱暴な人だなぁ…。
ふーん、ここが新しい住処(すみか)か…。
ま、今までみたいに広くはないけど、今年産まれのらんちゅうの僕一人ならこんなもんで十分かな!
でも、あの苔だらけの汚ない土管はらんちゅうには必要ないと思うけど…、ま、いっか。
すーいすい、うーん、快適、快適。
ふふーん、あ…、おっ?
あれ?
あれれ?
あんなとこに、可愛い女の子がいるじゃん!!
「おーい!!きみ!こっちこっち!こっちだよー!!」
…
あれ?
「おーい!!……」
あ…、隣の水槽かぁ…。そうだよな、あんな可愛い女の子と一緒に過ごせるわけないよなぁ…。
でも、ほんと可愛いなぁ。
つぶらな瞳に、大きくてキュートな口…。
すらーっと長く伸びた尾びれ…。
そして何よりあの丸くてグラマラスなボディ!
やばい、これってもしや…一目惚れ?
いや…、間違いない、この胸のトキメキ…。
そうだ、僕は、彼女に、恋をしてしまったんだ!
「おーいおーい、こっちだよー!こっち向いてよーー!おしゃべりしようよー、おーい!!」
「コラッ、小僧!さっきからうるさいぞ!」
「わ!ビックリした!土管がしゃべった!!」
「わしは土管じゃない、土管の中にいるだけじゃ!!」
「あ、そうなんだ、びっくりしたー、驚かさないでよ!そもそも、そこにいるならもっと早く言ってくれよ!」
「勝手にここに飛び込んできたのはお前の方じゃないか!」
「まあ、そうだけど…いやいや、僕は放り込まれたんだよ!僕の意思でここに来たわけじゃないし…、ほんとに乱暴な人でさ…。あ、まあ、そんなことより、出会って早々なんなんだけど、相談したいことがあって…」
「相談?もしや、隣の娘のことか??」
「な、な、なんでわかったの?」
「あんな大声で叫んでりゃ嫌でも気付くわい!」
「だよね(笑)それで、相談って言うのはさ、僕、あの娘に恋をしてしまったみたいなんだ…」
「ほう…」
「だからさ、なんとかして隣の水槽に行けないかなぁ?と思って…」
「ふむ、残念ながらそれは無理じゃよ…。お前もそんなことくらいわかっておったろう?」
「うん…まあね。でも、なんとかこの想いだけでも伝えられないかなぁ?」
「無理なもんは無理じゃよ。どうしても越えられない壁、叶えられない想いってのも世の中にはあるんじゃ」
「わかるよ、それはわかるんだけど…こんなに近くにいるのに…。別に…別にさ、あの娘と子孫を残したいとかそんな大それたことを思ってるわけじゃないんだよ?せめて、おしゃべりするだけでも…、ねえ?」
「無理なもんは無理じゃ」
「そうか…」
「しかもな、百歩譲って隣に行けたとしよう…」
「うん…」
「行けたとしても、お前の恋が成就する可能性は、ゼロだ」
「え?なんでさ?俺、金魚の王様らんちゅうだぜ?」
「むしろ、お前がらんちゅうだからこそ無理なんだ」
「…え?どういうこと?はっきり言ってよ!」
「あの娘はな、金魚じゃないんじゃよ」
「え!?そうなの??じゃあ、いったい何なの?」
「あの娘はなぁ…」
「うん…」
「オタマジャクシじゃ…」
「えっ!?オタマジャクシ???」
「そう、つまり、カエルの子だよ」
「カエルの…子…」
「そうじゃ、もうあと数週間で立派なカエルになるんじゃよ。後脚が出て、前脚が出て、尾が縮んでカエルに変態するんじゃ」
「カエルか…。金魚じゃないどころか、魚でも無いってことだよね?」
「そう、両生類じゃ。しかもな、あの娘はマルメタピオカガエル、通称バジェットフロッグと言ってなぁ、大きな口で、動くものは何でも反射的に食べてしまうような、貪欲な種類なんじゃよ」
「何でも?」
「ああ。例えば…、お前のような金魚もな…」
「そんなぁ…」
「可能性がゼロだと言った理由がわかったか?」
「水槽のガラスの壁なんか、低く薄っぺらに感じられるほどの理由だね…」
「種の壁とでも言おうか。でも、そう肩を落とすな。もともと無かった縁なんだ。そう思うしかあるまい」
「…いや、でも、まだわからないじゃないか!その時になってみないと、わからないじゃないか!!種の壁?そんなもの知ったこっちゃないし、関係ないよ!!僕はらんちゅうだ!誰もが憧れる金魚の王様らんちゅうさ!!」
「尾びれが捲れあがってて、背中がガタガタでも、か?」
「…え?」
「宿命じゃよ…」
「宿命?」
「自分ではどうにもならないことが世の中には、ある…」
「…」
「自分では決められないこと、変えられないこと、逃れられないこと。そういうことはたくさんある」
「だから諦めろって?」
「種の壁であったり、特性であったり、本能であったり、種同士の関係性であったり、…そういうものは自分の意志ではどうにもならない…」
「そう思い込んでるだけじゃない?種のせいにすれば、宿命のせいにすれば、簡単に割り切れると思ってない?あきらめられると思ってない?あんたはそうやって生きてきたかもしれないけど、僕はそんな簡単には受け入れられないよ!」
「簡単か…」
「そう言えばあんた、さっきから偉そうにしゃべってるけどさ、そろそろ土管から出てきて顔くらい見せたらどうなんだい?」
「ああ、そうだな、確かにお前の言う通りかもな。元々、お前がここに入ってきた瞬間に、ここから出るつもりじゃった。今となっては、なぜその時に出なかったのか、自分でもわからない。なんの因果かな…。でもな、今は出られない事情が出来てしまったんじゃ。わかっておくれ」
「なんだよそれ?出てこないんなら、僕が土管に入ってやるよ!」
「やめろ、近づくんじゃない!!」
「そんなに怒んなくてもいいじゃないか…」
「わしがいるこの水槽に、お前が選ばれ放り込まれたのは、種の特性と関係性のため。それ故、お前がわしに近づいた時、何が起きるか、わしは自覚しておる。それは、わしの心が望んでいなくても、本能が望んでいる以上、拒めないし避けられない。さっき、わしは、お前の恋が叶う可能性はゼロだと言った。種の壁を超越して結ばれることは不可能、それは間違いない。でもな、もし今ここで、わしとお前の宿命的な関係性を壊すことができたなら、もしかしたら、お前の願いは、あの娘とおしゃべりするくらいの願いなら、叶うのかもしれない…そう思えてきたんじゃ」
「そう、なの?でも、何を言いたいのかよくわかんないから、もっとわかりやすく説明してくれよ!」
「だから、それ以上近づくなと言ったろっ!!」
「だから、なんでだよ!」
「こっちに来るんじゃない!宿命に逆らいたいと思わんか!?」
「さっきからなんだよ、その宿命って?宿命宿命うるさいんだよ!!僕の宿命ってなんなんだよ!!こんな汚い水槽に放り投げられることが宿命なのか!?らんちゅうはなんのために産まれて来たんだ?教えてくれよ??できの悪いらんちゅうは恋もしちゃいけないのかい!?なんとか言ぇ……………ぁれ?…なんだそれ!?それ…、手…だよね?…しかも、水かき?も付いてる…」
「……」
「それに…、その大きな口…。……あんた、金魚じゃなかったのか?」
「…ああ、まあな…」
「…まさか…」
「ああ、カエルじゃよ」
「!」
「しかも、あの娘と同じ種類のな…」
「!!」
「これで、わしの話が理解できたろ?」
「……」
「お前とわしの間にある、種の壁。お前の宿命と、わしの宿命。こればかりはどうにもならないと思ってきた。ついさっきまではな。でもな、なぜだか今、不思議とそれが全てではないのかもしれないと思えてきたんじゃよ。なあ。お前とわしの間にある壁、壊したいと思わんか?」
「………」
「宿命に逆らいたいと思わんか?」
「うん」
「そうすれば、お前の願いが叶うかもしれんじゃろ?お前の恋が叶うかもしれんじゃろ?」
「そうなの?」
「確かに、今世では叶わないかもしれん。でも、来世で叶う可能性を、少しでも感じたいじゃろ?信じたいじゃろ?」
「もちろんさ」
「だったら…」
「…」
「お願いだから、わしに近づかんでくれ…」
ペットショップの両生類コーナー。
こんなところにも宿命のドラマが存在しているのです。
痛てててて、なにも投げ入れることないのに!乱暴な人だなぁ…。
ふーん、ここが新しい住処(すみか)か…。
ま、今までみたいに広くはないけど、今年産まれのらんちゅうの僕一人ならこんなもんで十分かな!
でも、あの苔だらけの汚ない土管はらんちゅうには必要ないと思うけど…、ま、いっか。
すーいすい、うーん、快適、快適。
ふふーん、あ…、おっ?
あれ?
あれれ?
あんなとこに、可愛い女の子がいるじゃん!!
「おーい!!きみ!こっちこっち!こっちだよー!!」
…
あれ?
「おーい!!……」
あ…、隣の水槽かぁ…。そうだよな、あんな可愛い女の子と一緒に過ごせるわけないよなぁ…。
でも、ほんと可愛いなぁ。
つぶらな瞳に、大きくてキュートな口…。
すらーっと長く伸びた尾びれ…。
そして何よりあの丸くてグラマラスなボディ!
やばい、これってもしや…一目惚れ?
いや…、間違いない、この胸のトキメキ…。
そうだ、僕は、彼女に、恋をしてしまったんだ!
「おーいおーい、こっちだよー!こっち向いてよーー!おしゃべりしようよー、おーい!!」
「コラッ、小僧!さっきからうるさいぞ!」
「わ!ビックリした!土管がしゃべった!!」
「わしは土管じゃない、土管の中にいるだけじゃ!!」
「あ、そうなんだ、びっくりしたー、驚かさないでよ!そもそも、そこにいるならもっと早く言ってくれよ!」
「勝手にここに飛び込んできたのはお前の方じゃないか!」
「まあ、そうだけど…いやいや、僕は放り込まれたんだよ!僕の意思でここに来たわけじゃないし…、ほんとに乱暴な人でさ…。あ、まあ、そんなことより、出会って早々なんなんだけど、相談したいことがあって…」
「相談?もしや、隣の娘のことか??」
「な、な、なんでわかったの?」
「あんな大声で叫んでりゃ嫌でも気付くわい!」
「だよね(笑)それで、相談って言うのはさ、僕、あの娘に恋をしてしまったみたいなんだ…」
「ほう…」
「だからさ、なんとかして隣の水槽に行けないかなぁ?と思って…」
「ふむ、残念ながらそれは無理じゃよ…。お前もそんなことくらいわかっておったろう?」
「うん…まあね。でも、なんとかこの想いだけでも伝えられないかなぁ?」
「無理なもんは無理じゃよ。どうしても越えられない壁、叶えられない想いってのも世の中にはあるんじゃ」
「わかるよ、それはわかるんだけど…こんなに近くにいるのに…。別に…別にさ、あの娘と子孫を残したいとかそんな大それたことを思ってるわけじゃないんだよ?せめて、おしゃべりするだけでも…、ねえ?」
「無理なもんは無理じゃ」
「そうか…」
「しかもな、百歩譲って隣に行けたとしよう…」
「うん…」
「行けたとしても、お前の恋が成就する可能性は、ゼロだ」
「え?なんでさ?俺、金魚の王様らんちゅうだぜ?」
「むしろ、お前がらんちゅうだからこそ無理なんだ」
「…え?どういうこと?はっきり言ってよ!」
「あの娘はな、金魚じゃないんじゃよ」
「え!?そうなの??じゃあ、いったい何なの?」
「あの娘はなぁ…」
「うん…」
「オタマジャクシじゃ…」
「えっ!?オタマジャクシ???」
「そう、つまり、カエルの子だよ」
「カエルの…子…」
「そうじゃ、もうあと数週間で立派なカエルになるんじゃよ。後脚が出て、前脚が出て、尾が縮んでカエルに変態するんじゃ」
「カエルか…。金魚じゃないどころか、魚でも無いってことだよね?」
「そう、両生類じゃ。しかもな、あの娘はマルメタピオカガエル、通称バジェットフロッグと言ってなぁ、大きな口で、動くものは何でも反射的に食べてしまうような、貪欲な種類なんじゃよ」
「何でも?」
「ああ。例えば…、お前のような金魚もな…」
「そんなぁ…」
「可能性がゼロだと言った理由がわかったか?」
「水槽のガラスの壁なんか、低く薄っぺらに感じられるほどの理由だね…」
「種の壁とでも言おうか。でも、そう肩を落とすな。もともと無かった縁なんだ。そう思うしかあるまい」
「…いや、でも、まだわからないじゃないか!その時になってみないと、わからないじゃないか!!種の壁?そんなもの知ったこっちゃないし、関係ないよ!!僕はらんちゅうだ!誰もが憧れる金魚の王様らんちゅうさ!!」
「尾びれが捲れあがってて、背中がガタガタでも、か?」
「…え?」
「宿命じゃよ…」
「宿命?」
「自分ではどうにもならないことが世の中には、ある…」
「…」
「自分では決められないこと、変えられないこと、逃れられないこと。そういうことはたくさんある」
「だから諦めろって?」
「種の壁であったり、特性であったり、本能であったり、種同士の関係性であったり、…そういうものは自分の意志ではどうにもならない…」
「そう思い込んでるだけじゃない?種のせいにすれば、宿命のせいにすれば、簡単に割り切れると思ってない?あきらめられると思ってない?あんたはそうやって生きてきたかもしれないけど、僕はそんな簡単には受け入れられないよ!」
「簡単か…」
「そう言えばあんた、さっきから偉そうにしゃべってるけどさ、そろそろ土管から出てきて顔くらい見せたらどうなんだい?」
「ああ、そうだな、確かにお前の言う通りかもな。元々、お前がここに入ってきた瞬間に、ここから出るつもりじゃった。今となっては、なぜその時に出なかったのか、自分でもわからない。なんの因果かな…。でもな、今は出られない事情が出来てしまったんじゃ。わかっておくれ」
「なんだよそれ?出てこないんなら、僕が土管に入ってやるよ!」
「やめろ、近づくんじゃない!!」
「そんなに怒んなくてもいいじゃないか…」
「わしがいるこの水槽に、お前が選ばれ放り込まれたのは、種の特性と関係性のため。それ故、お前がわしに近づいた時、何が起きるか、わしは自覚しておる。それは、わしの心が望んでいなくても、本能が望んでいる以上、拒めないし避けられない。さっき、わしは、お前の恋が叶う可能性はゼロだと言った。種の壁を超越して結ばれることは不可能、それは間違いない。でもな、もし今ここで、わしとお前の宿命的な関係性を壊すことができたなら、もしかしたら、お前の願いは、あの娘とおしゃべりするくらいの願いなら、叶うのかもしれない…そう思えてきたんじゃ」
「そう、なの?でも、何を言いたいのかよくわかんないから、もっとわかりやすく説明してくれよ!」
「だから、それ以上近づくなと言ったろっ!!」
「だから、なんでだよ!」
「こっちに来るんじゃない!宿命に逆らいたいと思わんか!?」
「さっきからなんだよ、その宿命って?宿命宿命うるさいんだよ!!僕の宿命ってなんなんだよ!!こんな汚い水槽に放り投げられることが宿命なのか!?らんちゅうはなんのために産まれて来たんだ?教えてくれよ??できの悪いらんちゅうは恋もしちゃいけないのかい!?なんとか言ぇ……………ぁれ?…なんだそれ!?それ…、手…だよね?…しかも、水かき?も付いてる…」
「……」
「それに…、その大きな口…。……あんた、金魚じゃなかったのか?」
「…ああ、まあな…」
「…まさか…」
「ああ、カエルじゃよ」
「!」
「しかも、あの娘と同じ種類のな…」
「!!」
「これで、わしの話が理解できたろ?」
「……」
「お前とわしの間にある、種の壁。お前の宿命と、わしの宿命。こればかりはどうにもならないと思ってきた。ついさっきまではな。でもな、なぜだか今、不思議とそれが全てではないのかもしれないと思えてきたんじゃよ。なあ。お前とわしの間にある壁、壊したいと思わんか?」
「………」
「宿命に逆らいたいと思わんか?」
「うん」
「そうすれば、お前の願いが叶うかもしれんじゃろ?お前の恋が叶うかもしれんじゃろ?」
「そうなの?」
「確かに、今世では叶わないかもしれん。でも、来世で叶う可能性を、少しでも感じたいじゃろ?信じたいじゃろ?」
「もちろんさ」
「だったら…」
「…」
「お願いだから、わしに近づかんでくれ…」
ペットショップの両生類コーナー。
こんなところにも宿命のドラマが存在しているのです。